メディア掲載

メディア掲載

メディア掲載

株式会社TKC発行の企業向け情報誌「戦略経営者」2023年12月号に当事務所のお客様である、株式会社大匠建設様がご紹介されました。

戦略経営者コラム 2023年12月

戦略経営者登場

大匠建設代表取締役社長 井上真一氏

国内産木材の活用と環境経営を推進する木造建築のプロ集団

「大工の匠」を意味する会社名を冠する大匠建設は、営業からプランニング、設計、施工までワンストップで手掛ける木造建築のプロフェッショナルである。東日本大震災をきっかけに環境経営に目覚めた井上真一社長の経営戦略に迫った。

 2017年、福岡県内で初めてCLT(クロス・ラミネーティッド・ティンバー=直交集成材)工法で建設したオフィスが完成した。建築主は大匠建設。井上真一社長は、今後普及拡大が期待される同工法の特長について次のように話す。
「ひき板を繊維方向が直角になるように積み重ねて接着したパネルを用いる工法です。スギやヒノキの間伐材を材料とすることができるので、国産材の有効活用につながります。新オフィスでは100%国産材を使用しました。日本は国土の約3分の2を森林に覆われている森林大国ですが、建築に使われる木材の多くは外国産材。このCLTが普及すれば国産材の需要拡大につながります」
 構造材としての機能性も抜群だ。直交する層を最低3層貼り合わせるので強度や耐震性が高く、5階建てのビルの建築事例もある。耐火性能にも優れており、火災時の燃焼速度は1分間に約1ミリに抑えることができるという。
「木材の燃焼速度がゆっくりになるのは、表面に断熱層となる炭化層が形成されるため。60ミリの厚さがあれば燃えきるのに1時間もかかる計算になります。環境にやさしく耐震性、耐火性能、断熱性にも優れる工法で、100年以上の耐久性をもたらすことができると考えています」
 九州初のCLTパネル工法による2階建てホテルとなった「変なホテルハウステンボスウエストアーム」(2016年2月完成)に携わったことからCLT工法を知り、自社オフィスの建設に採用した。その後同社ではこの工法を用いた木造ビル「匠の森」を展開。2~3階建てオフィスなど標準的なプランで工期5~6カ月、坪単価約100万円で施工している。かつては従来工法に比べ高コストだったが、近年の建設コスト高騰にともない割高感が薄れ、引き合いは強まっているという。
「新オフィスに採用しノウハウを積み、CLT工法の取り扱いを始めたところ、立て続けに6棟受注しました。2件目のある中小企業の3階建ての社屋では、オーナーから『地元の材料を使ってほしい』と要望がありました。結果的に那珂川市内でとれた木材を7割以上使ったのですが、竣工式には那珂川市長や市議会議長など多くの地元の名士がかけつけてくれました。それだけ地域の木材の有効活用には関心が高いことがよくわかりました」

戦略経営者コラム 2023年12月

井上真一社長

プロフィール
いのうえ・しんいち
1965年、福岡県福岡市生まれ。福岡工業高校卒。1990年に井上建装を創業、95年に有限会社大匠建設に社名変更、法人登録。2005年に株式会社大匠建設に社名変更。趣味はラグビー鑑賞、ゴルフ。

株式会社大匠建設
業種:一般建築物の設計及び施工、木工製品の製造
設立:1995年2月
所在地:福岡県那珂川市恵子1丁目47番地
売上高:約10億円
従業員数:30名
URL:https://dai-sho.net/

大匠建設本社

大匠建設本社

CLT工法で施工中の社屋(筑紫工業)

CLT工法で施工中の社屋(筑紫工業)

古民家体験施設 結

古民家体験施設 結

営業車をEVに切り替える

 国産材の有効活用を通じた日本の森林保全に強い思い入れを持つ井上社長が、自社の事業と環境との関係性を強く意識したのは、東日本大震災の経験だった。
「安全大会の視察で現地の状況を見て回り、被災者の方に話をうかがう機会がありました。そこで痛感したのは、電気やガス、水、燃料などライフラインがいかに重要かということです。なかにはガソリンを探し求めに出かけている途中、一酸化炭素中毒により車内で亡くなった人もいたそうです。とくに福島原発事故の影響でエネルギーの将来について強い関心を持つようになりました」
 所属する中小企業家同友会の環境経営委員会に入り、環境問題について本格的な勉強を始めた。学べば学ぶほど、化石燃料に依存する経済社会が恐ろしくなっていく。居ても立っても居られなくなった井上社長は、太陽光発電の導入や営業車の電気自動車への切り替えなどの取り組みを進めることにした。

10カ所以上で太陽光発電設備が稼働中

10カ所以上で太陽光発電設備が稼働中

「はじめは前の社屋の屋上に5.5キロワットの太陽光発電パネルを乗せました。実際に売電収入を得て、投資額とそれを回収できる期間がこんなに確実に計算できる事業はないことを実感しました。それから工場や社宅、保有物件の屋根に少しずつ増やしていきました」
 次に見直したのは営業車両だ。当時井上社長は燃費の良くないミニバンを使用しており、走行距離年間3万キロ以上、月のガソリン代は14万円以上にのぼっていた。
「経営者が化石燃料を使いまくっていては社員に示しがつかないと思い、まず私自身が電気自動車を使ってみることにしました。まず1台購入し、ガソリンを1滴も使わないカーライフを1年間送ってみて『これなら社用車にも使える』と判断しました」
 それまで経費として計上していたガソリン代は会社全体で年間800万円程度。すべて電気自動車に切り替えればガソリン代はゼロになるが、もちろんその分電気代もかかる。
 しかし一方で、同社は太陽光発電で電気を作り出している。補助金やローンをうまく組み合わせることでイニシャルコストもかなり抑制できることが分かり、井上社長は社用車すべてを電気自動車に切り替える決断を下した。電気自動車の導入は、燃料コストの低減のほかにもさまざまなメリットを生んだ。
「充電する場所はたくさんあるわけではないので、社員1人1人が1日の行動計画を前の日までに立てるようになりました。それが習慣化されると各人がその日に終えなければならない仕事を効率的にできるようになっていったのです」
 さらに社員による運転の仕方もがらりと変わった。新車の電気自動車なだけに、少しの傷もつけられないという意識が働き慎重な運転を心がけるようになったのである。安全運転の心がけが浸透し事故の件数が激減、自動車保険料の支払いが年間270万円から125万円と半減した。
 現在同社による太陽光発電の発電量は11カ所で合計180キロワット。電気自動車は16台を数え、災害時には60日間分(フル充電時)の電力量を蓄えておくことができるという。

新卒採用も順調に推移

 井上社長はもともと一人親方の大工出身。1990年に井上建装としてスタートし、大手ゼネコンの工事を商社経由で下請け受注し、内装工事や木造建築工事などで実績を重ねてきた。顧客の要望にできるだけ応えようとする丁寧な仕事ぶりで方々から声がかかり、その後業務の範囲は建具や家具の製作などにも拡大。最近では旅館の内装工事、新築木造店舗工事などの仕事も請け負う。木造建築に思い入れの強い井上社長が今後力を入れていきたいのは、古民家リフォームの分野だ。
「工場の横に空き家になっていた古民家があり、その土地を駐車場として借りていました。その古民家は1926年に建てられたもので、大工の直感としてとても価値があると感じていました。その土地がたまたま売り出されることになったので購入を決断し、山口雅文税理士事務所の支援のもとで事業再構築補助金の交付を受け『古民家体験施設 結』として再生させることにしたのです」
 ベテランも若手も一緒になって土壁や漆喰の補修を行い、伝統工法の技術継承に大いに貢献したという。古民家鑑定士の資格保有者もおり、移築再生や現地リフォームなどを行う「大匠の古民家」ブランドとして事業を展開していく計画だ。
 今年の4月にはなかがわ市民エネルギー株式会社を設立。顧客の敷地内の屋根上に負担ゼロで太陽光発電設備を設置し、そこで発電した電力を顧客に直接供給する事業を開始した。井上社長は再生可能エネルギーへの取り組みを加速し、将来的には那珂川市内でのエネルギー100%自給自足を目指すという。